SES・派遣
SES・派遣とは
SES(System Engineering Service:システムエンジニアリングサービス)と技術者派遣は、いずれも企業に正社員として雇用され、クライアント企業に常駐して開発業務を行う働き方である。
両者は法的には異なる契約形態だが、「自社ではなく他社で働く」という点では共通しており、実務上の働き方も似ている部分が多い。
SESと派遣の違い
SESと派遣は混同されやすいが、法的には異なる形態である。
SES(準委任契約)
- 技術者への指揮命令権はSES企業にある
- 労働時間に対して報酬が発生
- 成果物の完成義務はない
- 労働者派遣法の適用を受けない
派遣(労働者派遣契約)
- 技術者への指揮命令権は派遣先企業にある
- 労働者派遣法の適用を受ける
- 派遣期間に制限がある(同一組織で最長3年)
- 派遣元企業には各種義務がある
ただし、実態としては「偽装請負」(契約上はSESだが、実質的には派遣と同様の指揮命令関係にある)が問題になることもある。
業界の構造
SES・派遣業界は非常に多くの企業が存在し、その質にも大きなばらつきがある。
大手企業(派遣会社が中心)
従業員数1,000人以上の大規模な技術者提供企業は、テクノプロ、メイテック、アウトソーシングテクノロジーなど、労働者派遣法に基づく「技術者派遣」が主体である。
特徴:
- 法的には派遣契約が中心
- 大手企業の案件が多い
- 研修制度が整っている
- 福利厚生が比較的充実
- 案件選択の幅が広い
中堅SES・派遣企業
従業員数100〜1,000人程度の企業。SESと派遣を併用している企業も多い。
特徴:
- 企業による差が大きい
- 特定の業界や技術に強みを持つことも
- 経営者の方針が大きく影響
小規模SES企業
従業員数100人未満の企業。SES(準委任契約)が中心で、非常に多くの企業が存在する。
特徴:
- 玉石混交で、質の差が激しい
- ブラック企業も存在する
- 一方で、良心的な経営を行う企業もある
SES・派遣のメリット
1. 未経験からでも入りやすい
SES・派遣はIT業界への参入障壁が最も低い選択肢である。未経験者を採用し、研修を行った上で案件に参画させる企業も多い。
他の選択肢では未経験からの採用が難しいため、IT業界への第一歩としてSES・派遣を選ぶ人は多い。
2. 様々な現場を経験できる
案件が変わるごとに異なる企業、技術、業界を経験できる。これは、自分の適性を見極めたり、幅広い知見を得たりする上で有利に働く。
「どんな技術が向いているか」「どんな業界に興味があるか」を実際に経験しながら探ることができる。
3. 正社員としての安定性
フリーランスと異なり、正社員として雇用されるため、健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保障が受けられる。
案件が途切れても(待機期間)、一定の給与が保証される(ただし、企業によって待遇は異なる)。
4. 大手企業での就業機会
自力では入社できないような大手企業の現場で働ける可能性がある。大手企業のシステム部門やプロジェクトに参画することで、その規模感やプロセスを学べる。
5. 人脈の構築
様々な現場を経験することで、幅広い人脈を構築できる。この人脈は、将来のキャリアチェンジやフリーランスへの独立時に役立つことがある。
SES・派遣のデメリット
1. キャリアの自己決定権が低い
どの案件に参画するかは、基本的に企業の営業や上層部が決める。希望と異なる案件にアサインされることも珍しくない。
スキルアップしたい技術や、経験したい業界を選べない場合がある。
2. 単価と給与の乖離
企業がクライアントから受け取る単価と、エンジニアに支払われる給与には大きな差がある。いわゆる「中抜き」が発生し、還元率は40〜70%程度とされる。
同じ業務を行っていても、フリーランスや自社開発企業の正社員と比較して給与が低くなる傾向がある。
3. 帰属意識の低下
自社の社員でありながら、日々の業務はクライアント企業で行うため、どちらにも帰属意識を持ちにくい。
自社の社員との交流が少なく、孤立感を感じることもある。
4. 待機リスク
案件が見つからない、または案件が終了して次が決まらない場合、「待機」状態になる。待機中の給与は企業によって異なるが、基本給のみで賞与がカットされたり、減給されたりすることもある。
待機が長引くと、自己都合退職を促されるケースもある。
5. スキル評価の難しさ
案件ごとに環境が変わるため、一貫したスキル評価や成長支援を受けにくい。また、現場での評価が自社の評価に反映されにくいこともある。
6. 多重下請け構造
SES業界も、SIer同様に多重下請け構造が存在する。「エンドクライアント→元請けSIer→一次請けSES→二次請けSES」のように、何層もの企業を経由することがある。
下位に行くほど単価は下がり、エンジニアへの還元率も低下する。
SES・派遣に向いている人
以下のような志向を持つ人は、SES・派遣を有効に活用できる。
IT業界未経験で、まず経験を積みたい
未経験からIT業界に入る最も現実的なルートとして、SES・派遣は有効である。経験を積んだ後、他の選択肢に移ることを視野に入れて選ぶ人も多い。
様々な環境を経験したい
特定の企業に長く留まるよりも、様々な環境を経験したい人には向いている。
安定した雇用を維持しながらスキルを磨きたい
フリーランスほどのリスクを取りたくないが、様々な案件を経験したい人にとっては、正社員としての安定性を維持しながら経験を積める。
SES・派遣に向いていない人
一方、以下のような志向を持つ人は、SES・派遣での満足度が低くなる可能性がある。
自分でキャリアをコントロールしたい
案件選択の自由度が低いため、自分でキャリアを設計したい人には向いていない。
高い給与を求める
同等のスキルでも、正社員やフリーランスと比較して給与が低い傾向があるため、収入を最大化したい人には向いていない。
チームへの帰属意識を大切にする
常駐先が変わるため、チームの一員としての帰属意識を持ちにくい。
優良企業の見分け方
SES・派遣企業の質には大きなばらつきがあるため、企業選びは非常に重要である。以下のポイントを確認することをお勧めする。
還元率
クライアントからの単価のうち、どの程度がエンジニアに還元されるか。良心的な企業では60〜70%程度、中には80%を超える企業もある。
案件選択の透明性
案件の情報がオープンに共有され、エンジニアの希望が考慮されるか。面談前に案件内容を確認できるか。
待機時の待遇
待機中の給与がどうなるか。減給されるのか、基本給は保証されるのか。
研修・教育制度
特に未経験者向けの研修が充実しているか。資格取得支援があるか。
評価制度
現場での成果がどのように評価され、給与に反映されるか。
離職率
高すぎる離職率は、何らかの問題があることを示唆している。
口コミ・評判
OpenWork(旧Vorkers)や転職会議などの口コミサイトで、実際の社員の声を確認する。
面談時の対応
面談時に、案件情報や待遇について正直に説明してくれるか。質問に誠実に答えてくれるか。
避けるべき企業の特徴
以下のような特徴がある企業は、避けることをお勧めする。
求人情報と実態の乖離
「自社開発あり」と謳いながら実際はSES案件のみ、「研修充実」と言いながら実際はほとんどない、など。
極端に短い研修期間
未経験者を2週間程度の研修で現場に送り出すような企業は、教育体制が不十分な可能性がある。
待機中の過度なプレッシャー
待機が発生するとすぐに退職を促す、待機中の給与を大幅にカットするなど。
案件情報の不透明さ
どこの現場に行くのか、何をするのかが直前まで分からない。
多重下請けの下位
何社も経由して案件を受けている場合、単価が低く、エンジニアへの還元も少なくなる。
キャリアアップ戦略
SES・派遣を経験として活用し、キャリアアップしていくための戦略を紹介する。
1. 経験を意識的に積む
漫然と案件をこなすのではなく、「この案件で何を学ぶか」を意識する。可能であれば、スキルアップにつながる案件を希望として伝える。
2. 資格取得
AWS認定、基本/応用情報技術者、Oracle認定など、客観的なスキル証明となる資格を取得する。案件獲得や単価交渉に有利に働く。
3. ポートフォリオの構築
業務外の時間で個人開発を行い、ポートフォリオを作成する。転職時のアピール材料となる。
4. 人脈の構築
現場で出会った人との関係を大切にする。将来の転職や案件紹介につながることがある。
5. 転職のタイミングを見極める
SES・派遣で2〜3年経験を積んだら、WEB系企業やSIerへの転職、またはフリーランスへの独立を検討する。長く留まりすぎると、キャリアの選択肢が狭まる可能性がある。
キャリアパス
SES・派遣からのキャリアパスは、主に以下のパターンがある。
WEB系・自社開発企業への転職
SES・派遣で経験を積み、ポートフォリオを作成した上で、WEB系企業に転職する。最も一般的なステップアップルートの一つ。
SIerへの転職
特に業界知識やプロジェクト経験を活かして、SIerに転職する。上流工程を経験したい場合に有効。
社内SEへの転職
IT企業ではなく、事業会社のIT部門(社内SE)に転職する。ワークライフバランスを重視する場合に有効。
フリーランスへの独立
十分な経験とスキルを積んだ後、フリーランスとして独立する。単価アップが見込める。
社内でのキャリアアップ
SES・派遣企業内でリーダーやマネージャーに昇進し、チームや組織をマネジメントする側に回る。
まとめ
SES・派遣は、IT業界への参入障壁が低く、様々な現場を経験できる一方で、キャリアの自己決定権が低く、給与も他の選択肢と比較して低い傾向がある。
大手企業(従業員1,000人以上)は派遣契約が中心であり、中小規模の企業はSES(準委任契約)が多いという業界構造を理解した上で、自分に合った企業を選ぶことが重要である。
SES・派遣を選ぶ際は、優良企業を見極めることが非常に重要である。還元率、案件選択の透明性、待機時の待遇、研修制度などを確認し、ブラック企業を避ける必要がある。
SES・派遣は「ゴール」ではなく「ステップ」として捉え、経験を積みながら次のキャリアを見据えることをお勧めする。意識的に学び、スキルアップし、適切なタイミングで次のステップに進むことで、SES・派遣での経験を有効に活用できる。
未経験からIT業界に入りたい人、様々な環境を経験したい人にとっては、有効な選択肢である。一方で、自分でキャリアをコントロールしたい人、高い給与を求める人には向いていない。自分の状況と目標に照らし合わせて、慎重に判断することが重要である。