信用創造とは?
はじめに
銀行がお金を貸し出す仕組みについて、一般的には「預金者から集めたお金を、借りたい人に貸している(又貸し)」と考えられています。 しかし、実務的な事実は異なります。銀行は、預金を元手に貸出を行っているわけではありません。
本記事では、現代の通貨システムの根幹である「信用創造(Money Creation)」の仕組みと、民間銀行と政府におけるその性質の違いについて解説します。
信用創造のメカニズム
銀行が貸出を行う際、金庫から現金を取り出して渡すわけではありません。 銀行は、借り手の銀行口座に貸出額を記帳する(キーボードで数字を打ち込む)だけで、貸出を実行します。
この瞬間、新たな預金(通貨)がこの世に誕生します。これを「信用創造」と呼びます。かつては万年筆で記帳していたことから「万年筆マネー」とも呼ばれます。
複式簿記による実証
このプロセスを複式簿記で確認してみましょう。銀行がAさんに1,000万円を貸し出すケースを考えます。
銀行のバランスシート
| 資産 | 金額 | 負債 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸出金 | +1,000万円 | 預金 | +1,000万円 |
Aさんのバランスシート
| 資産 | 金額 | 負債 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 預金 | +1,000万円 | 借入金 | +1,000万円 |
ここで重要なのは、銀行の「貸出金(資産)」と、Aさんの「預金(負債)」が同時に発生しているという点です。 銀行はどこかから1,000万円を持ってきたわけではなく、貸出という行為によって、無から1,000万円の預金を生み出しています。
「預金が先か、貸出が先か」
「又貸し説」では「預金(元手)があるから、貸出ができる」と考えます。 しかし、信用創造の現実は**貸出が預金を生む(Loans create deposits)**という順序です。
イングランド銀行(英国中央銀行)も、公式解説の中で「銀行は貸出を行うことで預金を創造する」と明確に認めています。
出典: Bank of England, “Money creation in the modern economy” (Quarterly Bulletin 2014 Q1)
民間の信用創造における制約
銀行が預金を生み出せるからといって、無制限に貸出ができるわけではありません。民間銀行の信用創造には、明確な制約が存在します。
-
借り手の返済能力(信用力) 銀行は営利企業であるため、返済が見込めない相手には貸しません。借り手の収入や担保価値が不足していれば、信用創造は行われません。
-
自己資本比率規制(BIS規制など) 銀行経営の健全性を保つため、保有資産(貸出金など)に対して一定割合以上の自己資本を持つことが義務付けられています。
出典: Bank for International Settlements, “Basel III: international regulatory framework for banks”
-
景気変動の影響(プロシクリカリティ) 不況時は企業の業績が悪化し、返済能力が低下します。すると銀行は貸出を減らそうとする(貸し渋り・貸し剥がし)ため、世の中の通貨量が減少し、さらに不況が悪化するという悪循環(プロシクリカリティ)が発生しやすくなります。
政府による信用創造(国債発行)との違い
政府が行う国債発行も、広義には信用創造の一種ですが、民間銀行のそれとは決定的な違いがあります。
1. 民間の制約が適用されない
政府には、民間のような「返済能力(お金があるか)」や「自己資本比率」といった制約は適用されません。自国通貨建てで国債を発行する政府が、資金不足でデフォルト(債務不履行)する可能性は理論上きわめて小さいと考えられているからです。
2. 決定プロセス(財政民主主義)
政府の支出は、銀行の審査部が決めるのではありません。 憲法83条・86条に基づく財政民主主義の原則により、各省庁が作成した予算案をもとに、国会における予算審議を通じて決定されます。 つまり、国民の代表による民主的なプロセスを経て、「何に投資すべきか」が決められます。
3. 判断基準
民間は「返済して利益が出るか」で判断しますが、政府は**「社会的な必要性」や「未来への投資効果」**を基準に判断します。 利益が出にくいインフラ整備、科学技術研究、防災対策、社会保障などは、政府だからこそ資金を供給できる分野です。
4. 制約条件の多層構造
では、政府は無制限に国債を発行できるのでしょうか? 実質的な制約は以下の2点に集約されます。
-
物理的制約(上限): 国内の供給能力。 いくら予算(お金)をつけても、実際に工事をする人や資材、サービスを提供する能力(供給能力)が不足していれば、事業は実行できません。無理に行えば悪性インフレを招きます。これが物理的な上限です。
-
手続き的制約(決定要因): 国会の予算審議。 予算が執行できるかどうかは、最終的に国会で可決されるかどうかにかかっています。「お金がないからできない」のではなく、「国会での合意が得られないからできない」というのが、正しい制約のあり方です。
5. 緊急時の役割
大規模震災や経済危機などの緊急事態において、民間はリスクを恐れて資金を縮小させます。 そのような時こそ、政府は返済能力を問わず柔軟に資金を供給し、経済を支える役割を担います。これができるのは、政府が営利目的ではなく、公共の福祉を目的とする主体だからです。
まとめ
- 信用創造: 銀行は貸出によって預金(通貨)を生み出す。
- 民間の役割: 返済能力のある成長分野へ資金を配分するが、不況時には縮小しやすい。
- 政府の役割: 供給能力と民主的プロセスに基づき、民間では担えない分野や緊急時に資金を供給する。
この両輪が機能することで、健全な経済成長と社会の安定が維持されます。